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私的・すてき人

若い世代に伝えたい、音楽がどんなに素晴らしいかを

File.137

ピアニスト

みやざき たけし

宮崎 剛さん [大阪府和泉市在住]

公式サイト: http://www.takeshi-piano.com/

プロフィール

1968年 和歌山県出身
1990年 武蔵野音楽大学卒業
1996年 大阪音楽大学大学院修了 大阪府芸術劇場奨励新人賞受賞 
1998年 上海でピアノ協奏曲「黄河」を日本人初公演
2013年 弾き振り演奏団体「CETオーケストラ」「合唱団CET」を設立 
現在、府立岸和田高校、宝塚音楽学校他で講師を歴任するほか、NHK文化センター等で一般音楽愛好家のための講座を多数開講している  イェルク・デームス他各氏に師事、日本演奏連盟所属

誰もやらないことをやりたい!――それが彼の原動力。
 
ピアノで観客を魅了するのは当たり前、その先にもっと笑わせ楽しませることはできないだろうか…
そこで浮かんだアイデアが「リクエスト方式」だ。観客のどんなジャンルのリクエストにも即興で応じ、ピアニストとは思えぬトークで会場をわかせる。
さらに「弾き振り」をやってしまう事でも有名。弾くだけでも並はずれた集中力が求められるのに、同時にオーケストラの指揮までやろうなんてピアニストは、日本中探してもそうはいない。
「お客さんに喜んでもらえる演奏を、パフォーマンスをしたい。それが何より僕にとって大切なこと…」
観客をとりこにする高い芸術性と、アイデアたっぷりに会場を盛り上げるオモシロさ。誰もやらないことをやる、そんな多面性こそが彼の大きな魅力なのだ。
 
 

地元の大阪で1番を獲りたい

ダイナミックで多彩、心が震えるようなその演奏を聴いて、彼の眼には楽譜が見えていないと気づく人が、どれほどいるだろうか。
先天性の眼の病で、極端に視力が低い彼がなぜピアニストという道を選んだのか…
 
「両親は目が悪くても、普通の子どもと同じように育てたいと思ったんですね。音楽好きだった事もあって、4歳の時親に連れられてピアノ教室に行ったのが始まりなんです」
 
「とにかく絶対音感をつけろといわれましたね。そうすれば楽譜を見なくても、聞いただけで弾けるようになると」
絶対音感というのは持って生まれた才と、5歳くらいまでにどれだけ音楽に触れるかの両方で決まるのだという。
もちろん音楽的才能とセンスを持ちあわせていた彼は、すべて暗譜で弾くことで様々な曲を弾きこなすようになっていく。
 
高校3年になり、この先どこへ進もうか…そう悩んでいた時「当時習っていた先生に東京へ行ってこい!っていわれて。一度ひとり暮らしをして、社会を見てこいってね」
その言葉に背中を押されるように、武蔵野音楽大学に入学し寮で暮らし始めたのだが「やっぱりハンデがある分、すごい大変だったんです。でもたまたま全盲の学生と一緒の部屋になってね。ああ、僕なんかよりもずっと苦しい人がいるんや、頑張らなきゃと」。
 
結果1000人中4番と抜群の成績で卒業。
ところが教授からは「大阪に帰れって言われたんですよ(笑) 東京でピアニストとして成功するなら1番じゃなきゃ無理だ。まず地元の大阪で地盤を作れ、一番を獲れって」
 
「よし、じゃあ大阪で勝負しよう!」
地元に戻り音楽教師をしながら、どうすれば名前を覚えてもらえるのだろうかと、手探りの日々が続いた。
 
そんな時、偶然大きな出会いが訪れる。世界的ピアニスト、イェルク・デームス氏がその才能に惚れこみ、なんと学費はいらないから自分のもとで学ばないかと、声をかけてきたのだ。
「オーストリアに渡って毎日レッスンを受けたんだけど、それがほんとにキツかったんですよ。何をどう弾いても違うっていわれる。目が悪い、それがなんだと。悪いからどうすればいいのか、どんな練習をすれば上にいけるのか…そこを徹底的に教えられた」
この経験こそが彼の演奏を、さらに飛躍させることになったのだ。
 
 

若い世代に音楽の素晴らしさを伝えたい

2年後には大阪音楽大学大学院を修了し、大阪府芸術劇場新人奨励賞も受賞。リサイタルを開けば、観客がホールを埋め尽くすほど、その演奏は評判を呼び始める。さらに内外のオーケストラとの共演も増え、多くの合唱団で指揮、作曲も手がけるように。
 
だが、彼のなかにはいつもくすぶる思いがあった。「クラシックをもっと身近に楽しんでもらいたい…」
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「クラシックなんてつまらない、難しい…そんな固定概念を崩したいなと。クラシックもポピュラーも、音楽はみんな同じで楽しいんだって事をわかってほしかった」
そこで始めたのが、くだんのリクエスト。プログラムの演奏を終えた後「観客のリクエストになんでも応える」というものだった。
 
アニメソングから演歌、ジャニーズのヒット曲…毎日何が飛び出てくるかわからない。台本の無い一発勝負だけに客席は盛り上げるが、そのためにはあらゆるジャンルの曲を聴き、覚え、常にアップデートしていく…という絶えまない努力が必要になる。海外のオーケストラともタッグを組むような気鋭のピアニストが、一方でアイデア満載のパフォーマンスで爆笑をとる…そのミスマッチさが、まさに彼にしかできない多様性なのだ。
 
 
そしてもうひとつ、「若い世代にどうしても音楽の魅力を伝えなければ…」という、使命にも似た思いがある。
 
「音楽離れがドンドン進んでいて、いつか学校から音楽の授業が消えてしまうかも…とまでいわれてるんです。だから今教えないと、伝えないと大変なことになる」
受け持つ授業では、CDは一切かけない。どんな曲もすべて彼が生で演奏し、その美しさ、素晴らしさを伝えていく。
「ビールと一緒でね、やっぱり生でしょ?(笑)そうしてるとね、生徒が変わってくるんですよ。一年経った頃には『僕、音楽がしたい!どうすればいい?』って子が必ず出てくる。それがうれしい」
 
「ピアノを通じて、ひとりでも多くの人に音楽の素晴らしさを、喜びを伝えたい」
だからどんな仕事も断らない。どれ程遠くても、どんなに小さな会場でのライブでも、モーツァルトやショパンを熱演。もちろんお馴染み“リクエスト”コーナーでは、会場を盛り上げる。
「大学の時先生にいわれたんですよ、どんな仕事もケルなって。仕事は全部自分の勉強になる。自分の力になるんです」
 
 

2016/7/3 取材・文/花井奈穂子 写真/ 小田原大輔