私的・すてき人

何かひとつ出来ることを見つけてほしい。それが生きる喜びになるから

File.139

日本舞踊家

はなやぎ うてい

花柳 羽玎さん [大阪府岸和田市在住]

公式サイト: http://www.uteihanayagi.com/

プロフィール

1974年 岸和田市出身
1982年 8歳で花柳流入門
1991年 国立文楽劇場で名披露目
1999年 花柳流師範となる
2006年 オランダの「ゴッホミュージアム」特別企画展のオープニングセレモニーで藤娘を披露
2015年 各流派合同新春舞踊大会出演  数々の舞台に立ちながら、伝統文化を伝えるワークショップなどにも力を注ぐ 花柳創依に師事

日本舞踊は難しい、近寄りがたい、そもそもよく分からない――そんな“とっつきにくさ”をなんとか取り払いたい、身近に感じてほしい。
そんな思いで様々なアプローチを仕掛けるのには、ワケがある。
 
「ひとつ出来ることがあると、人生は幸せになる」
伝統芸能を知ってほしい以上に、豊かな人生を見つけてもらいたい…そんな深い願いがあるからだ。
 
「何でもいい、ひとつ自分に誇れるもの、“得意”があると人生は変わると思うんです。だからこんな世界もあるよ、一回体験してみてとたくさんの人に伝えたい。人生の道を見つけるきっかけになれたらいいなと」
 
それが結果踊りでなくてもいい、自分にしか出来ない何かを、才能の在りかを見つけてもらいたい…
「私の道は、たまたま日本舞踊だった。そこからたくさんの宝物をもらいました。だから今度は若い人たちに、それを伝える番やと思うんです」
 
 

10歳で知った舞台に立つ喜び

日本舞踊に出会ったのは8歳の時。
 
「長唄や踊りをやっていた祖母に『やってみない?』っていわれて。うん、やるやる、って連れてってもらったのが花柳流の教室だったんです。行ってみたら、おけいこの後に必ずおやつが出てくる。これにつられて通い続けたようなもの(笑)」
 
2年後には初舞台を踏み「カツラがキツくて気分が悪くなったり、今思うと子どもながらによう頑張ったなあと。でも終わってみればたくさんの拍手をいただいて、舞台に立つ喜びを初めて味わったんです」
 
 
日本舞踊は江戸初期、出雲の阿国が創り出した歌舞伎踊りに始まったものといわれる。歌舞伎とは違い、性別に関係なく男性が女を演じたり、女性が男舞(おとこまい)をすることも。
「だから花魁になったり、お坊さんになったりと、いろんな人物になれるのが面白いんですね。20分ほどの曲のなかには様々なドラマやストーリーがあって、その役をどうやって自分で作り上げていくかっていう、楽しさと難しさが魅力。舞台ではすごい集中して踊ってる間の、アドレナリンが一気に出る“ゾーン”な感じがたまらないんです」
 
 
だが踊りだけしか見えなかった、というわけでもなく中学ではテニスや吹奏楽のクラブに。高校時代はバレーボールにも挑戦した。
「でもなんか向いてないっていうか、才能がもひとつっていうか(笑) やっぱり私は踊ることが好きなんやなあ、これを大事にしていかんとアカンなあと、あらためて思ったんです」
 
いろんな体験をしてこそ見えてくる道がある。だからこそ、自分を探す旅をたくさんしてほしい…
そんな思いが今も彼女の根っこにある。
 
 

海外にも日本舞踊の楽しさを

現在は関西・大阪21世紀協会に吸収されているが、30数年前に作家の故・司馬遼太郎氏らが立ち上げたのが上方文化芸能協会。大阪の伝統芸能を後世に伝えようという目的で設立されたのだが、その活動の一環に「上方花舞台」の公演があった。彼女はそのオーディションに合格して3年連続で出演。中村富十郎、池内淳子らのスターや、花街の芸妓らとの共演も経験した。
 
「まだ大学生だった私にとって、1ヶ月間のおけいこは楽しかったけれど、ほんとにキビシかった。特に礼儀作法は、ここでみっちり仕込まれました。最近の若い人は怒られることに慣れてないでしょ?でも怒られたことは全部勉強になるし、いつか力になる。せっかく好きなことに出会っても、シンドいからって途中で投げ出してしまったら、もったいないなあと思いますね」
 
 
多くの舞台に立つかたわら、若い世代へのワークショップも多く手がける。
2008年には精華小学校跡を利用し、大阪市などが主催した「精華小劇場」に招かれ、舞台人をターゲットにした「舞台に立つ身体になる」と題したスキルアップ講座を行った。
また母校、城星学園では「ゆかた美人養成ゼミナール」も実施。
「きれいな着物を自分で着られたら、すごく楽しいと思うんです。それだけで女子力、上がるじゃないですか。まずそこから日本の文化や芸を好きになってくれるといいなと」
 
 
さらに昨年は、海外で暮らす日本の子どもたちにも「日本ならではの文化を届けたい」と“海外出張”にも出かけた。
訪れたのは、かつてオランダ公演(日蘭文化センター主催)を行ったことから親交を深めた、アムステルフェンにある日本人幼稚園「チューリップ学園」。
そこで日本舞踊を披露し、さらに親子で参加してもらったワークショップでは、扇子で花や風を表現したりと、日本の伝統文化の美しさを伝えた。
 
「もうすっごい楽しかったです!みんな一生懸命聞いてくれて、私の方がいっぱい元気をもらいました。園児たちの中から一人でもふたりでも、着物っていいなあとか、日本舞踊やってみたいなあとか思ってくれたら最高!これからもまた、海外でこんなワークショップをぜひやりたいんです」
 
夢はたくさんの幸せをくれた日本舞踊への恩返し。
「ぜひ一度舞台を見に来てほしい。そこで音楽でもいい、着物やセットの美しさでもいい、表現することの面白さでも何でもいいから心に響いたら、それが道を探すきっかけになるかもしれない。お金では買えない豊かさっていうのかな、何かひとつ出来る喜びを、幸せをみつけてほしいんです」
 
 
※「花柳 羽玎さん」の「てい」の文字が文字化けして見えている方へ。「てい」の漢字は「王」へんに「丁」です。
 
 

2016/9/29 取材・文/花井奈穂子 写真/ 小田原大輔