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私的・すてき人

自分も社会も幸せになれる、そんな道を切り開いてほしい

File.141

桃山学院大学学長

まきの になこ

牧野丹奈子さん [大阪府在住]

公式サイト: http://www.andrew.ac.jp/

プロフィール

1961年 東京都出身
1984年 大阪大学工学部環境工学科卒業
1986年 大阪大学大学院工学研究科前期課程修了 東洋情報システム(現TIS株式会社)入社
1990年 桃山学院大学経営学部助手に
2003年 経営学部教授
2008年 経営学部長就任
2016年 同大学長に就任

今年女性として初めて、桃山学院大学の学長に就任した。
 
もともと驚きのプログラムや、目からウロコの教育を次々ゼミに取り入れてきた彼女が、これからどんな新しい風を吹き込むのか――
 
まず数年前から自身のゼミで実施している、上級生が下級生をマンツーマンで指導するという「エルダーシステム」。そこでお互いが刺激しあい、成長していくさまを目の当たりにした彼女は、来年度からそれを全学部に導入することに。
さらに「学部横断プログラム」と題して、興味があればどの学部の授業にも参加できるという、斬新な改革にも乗り出した。
 
「今企業は即戦力を求めてるんです。昔のようにゆっくり新人を育てるほど、企業も余裕が無いんですね。社会に出た時に自分の能力や個性を発揮できる、その力を養うことが大事だと」
 
大学の持つ自由な気風を存分に生かして、どんな次代を拓いていくのか――まさにここからが未来へのチャレンジとなる。
 
 

企業を辞めて大学教員の道へ

初めて助手として教壇に立った日、自分を見つめる学生たちの真剣なまなざしに出会って心が躍った。「ああ、なんて素敵な仕事なんだろう!うれしいなあ、こんなに教えることが楽しいなんて…」
 
 
大阪大学の工学部を卒業、同大学院の工学研究科まで出た才媛にも、一度だけ自分の選んだ道に悩んだことがあった。
「IT企業に就職したんですけど、私のいる部署は商店街や病院にどんなシステムを導入すれば売り上げが伸びるか――みたいな提案をしていたんです。でも関わるうちに、ITよりも経営の方が断然面白くなってしまって(笑)」
 
「例えば100年前の文化しか持たない組織に、最新のシステムを導入したところで何も変わらない。まず人ありきなんですね。人が経営して会社を動かしてる、そのことがオモシロくて。迷った末、こっちの方が向いてる!って4年で会社を辞めちゃったんです」
 
 
長らく歩んできた工学の道をスパッと変更。もともと教師になりたかったこともあって、桃山学院大学の経営学部助手となった。
 
「大学は欠点を埋めるのではなく、長所を伸ばしていく場所だと思うんです。高校までは受験のために、苦手を克服せざるをえない。でも大学は学生の得意を見つけて伸ばして、それを仕事につなげていく事こそが、ミッションじゃないかなと」
 
学びを仕事につなげていく――それを考えた時、学生が自分で考え実践し、体感できる授業とは何かを模索するようになる。
 
「うちの大学は5学部6学科あるんですが、すべて文系(人文・社会科学系)。学んだことがそのまま仕事になる理系の学生とは、目的意識がまったく違う。何のために大学に来たのか、ただ大卒の称号がもらえればいいのか、そこがとてもあいまいになってしまう。そこで始めたのが、実際に商品の企画からコンサルティング、販売までをすべて学生自身が行うプログラムでした」
 
まず外のネットワークとも連携するために、アパレル企業で働く卒業生たちにコンタクトをとった。そしてどんなアパレル商品を企画し、販売につなげていくのか。仕入れや在庫管理、プレゼンテーションや広告はどうするのか。売り上げはどう確保するのか…など、すべてを学生たち本人が考え実行。“プレ社会人”としてその大変さやオモシロさを体験していくのだ。
 
「初めはみんなノリノリなんですよ。でもやってみたらアルバイトとは違う、そこには大きな責任があるわけです。だんだん仲間同士のモメ事が増える、意見の食い違いから険悪な雰囲気になる(笑) でもね、それを経験することで“折り合いをつける”ことを学ぶ。すべて自分の思い通りにはいかない、人と折り合いをつけていく事も大事なんだと。そうして一歩ずつ前へ進んでいく、すると折れない心が育つんですね」
 
彼女のゼミではこの数年で、地元の障がい者のためのメイクアップ教室をビジネスとして展開したり、和泉市の特産である人造パールの商品企画をしたり…と多くのプログラムが生まれた。
 
「教師はそっと見守るだけ。そして彼らがやっとの思いでゴールした時に手にするのは、経験したことのないような達成感なんです」
 
 

時に学生たちの母の役目も

一方で来年からは、全学部への導入を進めている「エルダーシステム」。
 
「私が教員になった時よりも、やはり学生の気質が変わってきてるんです。大人とどう接すればいいかわからない。このままじゃダメだなと。じゃあどうするか、私たちが注意するより、上級生に教えてもらうのが一番響くんじゃないかと考えたんですね。で、試しに4年生が3年生に、勉強だけでなく生活などにもアドバイスをする、マンツーマンのシステムを取り入れてみたんです」
 
すると1ヶ月経たずに、彼らはドンドン変わっていったのだという。先輩が先生に対してとる礼儀作法や、将来へのアプローチの仕方を知って、人間的に大きく成長したのが手に取るようにわかった。
 
「上級生が職員と共にプログラムを企画し、彼らは下級生に指導していく。それを教員が側でサポートするという、いわば職員・教員・上級生の三位一体プログラムなんです。これからはすべての学生に実施することで、もっともっと人間力を高めてほしいなと」
 
さらには学長としての大仕事ともいえる、学部のワクを超えて授業を受けられる「学部横断プログラム」も段階的にスタートすることに。社会に出ればどんな知識も役に立つ、だから学部の線引きなしに、豊かな教養を身につけてほしいとの思いからだ。
 
自分らしく輝いてほしい、誇りを持って仕事をし、地域や人の役に立ってほしい…思いはいつもそこにたどり着く。
 
学長として分刻みのスケジュールをこなしながら、時には学生とランチを楽しんだり、卒業生からの相談に乗ったり。女性ならではの視点や思いで問題を共有し、受け入れる“母親”の役目も担う毎日だ。そんな学生との距離の近さも、彼女の素朴であたたかい人柄ならでは。
 
「この大学の教育ビジョンは『地域で、世界で人を支える』なんですね。世界のどこにいても、そこに根を張って地に足をつけて誰かを支える。そして社会の中で自分らしく働き、個性を磨く。自分も社会も幸せになる道を、切り開いてほしいんです」
 
 

2016/11/21 取材・文/花井奈穂子 写真/ 小田原大輔