私的・すてき人

ひとつ好きなことがあれば生きていける。子どもたちにも自分の大好きを見つけてほしい

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イラストレーター

こみや さえこ

小宮 さえこさん [大阪府和泉市在住]

公式サイト: http://profile.ameba.jp/saegallery/

プロフィール

1980年 河内長野市出身
1998年 泉大津高校卒業
2006年 第1回挿し絵フェスタ 特選サンケイリビング新聞社賞受賞
2014年 第47回アートコンテスト 白泉社 MOE賞受賞
2016年 子どもアート教室「PICARO」開講
2017年 久保惣ミュージアムのタウンロゴデザイン 堺音楽祭ライブペイント出演

どの人生にも必ず大きなピンチはやって来る。
だがその時それをチャンスにできる否か――そこで未来は大きく変わるといってもいい。
 
離婚という現実を受け入れるまで、心身ともに疲れ果て、歩くこともままならない日々が続いた。
 
「でもいざ決断してみたら、そこから新しい人生が始まったんです。運命が巡ってきたかのように、自分のやりたかった“描く”という仕事ができるようになった。たくさんの出会いがあって、それが全部つながって、夢に向けて歩ける今がある。人はひとつ大好きなことがあれば生きていけるんやなあと」
 
人生はまさにオセロゲームのようなもの。夢という石がひとつあれば、アッという間に黒を白にひっくり返せる、どこからでも人生はリスタートできるのだ。
 

母との再会

幼い時から絵を描くことが大好きな少女だった。
「色々習い事はやったんですけど、あんまり続かない(笑)。結局大人になっても続いてるのは、習うことのなかった“描く”事だけだったんです。でも若い頃これを仕事にしようとは思わなかった。好きなことを仕事にしてしまったら、イヤになってしまう気がして…」
 
描くことを仕事にはしない…そう思っていた彼女に、結婚して長男が3歳になった頃ひとつの転機が訪れる。
「ふと産みの母に会いたいなって思ったんです。もちろん父や育ての母への感謝は変わらない。でも私も母親になって、子どもを育てることの大変さも愛しさもわかる。会うなら今しかないって思って」
 
実は彼女の両親は5歳の時に離婚、以来母に会ったことがなかった。約20年ぶりの再会――「この時思い切って母に会ったことが、私のなかで大きな刺激になったんやと思うんです。母に、私が頑張って好きなことをやってる姿を見せたいって思ったんですね」
 
今まで独学で描いてきた絵画を、改めて通信教育で学び、挿絵ライター技能認定試験にも合格。イラストの仕事をしながらさまざまなコンテストにも応募し、受賞するたびにますます“描く”ことが人生の大きな夢へと変わっていった。
 
だが運命の扉はそう簡単には開かない。次男を出産し子育てに追われながらも、やっとイラストレーターとしての道を歩き出したとたん、嫁ぎ先の会社を手伝うことになってしまったのだ。
 
「新しい会社の代表を任されて、それなら旦那さんの両親に尽くすことも人生かもしれない…と自分に言い聞かせていました。絵を描きたいという思いと会社の仕事とのはざ間で葛藤の数年間だったんです」
 
描くことを封印しながら毎日を送っていた時、さらに今度は離婚という問題が大きくのしかかってくる。結局ストレスで体をこわし、仕事を続けることもできなくなってしまう。
 
「毎日30錠の薬を飲んで、リハビリにも通いました。何ヶ月かして少しずつ体が回復してくると、それにつれて心も柔軟になっていった。子どもたちのためにと拒んでいた離婚を納得して受け入れることができるようになったんです」
 
 

いつか自分の絵本を

人生最大のピンチを受け入れ前を向いたとたん、運命は意外やたくさんのチャンスを運んできた。
 
「それからすぐグループ展に参加したら、そこでたくさんのアーティストさんに出会って。そこからいろんな仕事が来るようになったんです。たまたま和泉でペイントのライブをやったら、それを見てくれてた市の教育委員会の方と知り合って久保惣美術館のアート祭の仕事につながっていったり。運命のような出会いが次々めぐってきたんです」
 
さらには念願だった、子どもたちと関わりながらアートを表現したいという夢もアッという間に叶えてしまう。
自らが幼い時に祖父母と暮らした、唐国にある古家を改装して「PICARO」という名の子どもアート教室を昨年スタートさせたのだ。
 
とにかく自由に思いっきり、好きなことをやらせるのがモットー。顔や服が絵具まみれになっても、床がドロドロになってもそれは目いっぱい楽しんだあかし。
 
「無理やり何かをさせることはしたくないんです。子ども時代の記憶は鮮明に残るもの。そのかけがえのない時に、絵を描きモノづくりすることによって心が喜ぶ体験をいっぱいしてほしい。だから子どもたちには、自分の大好きをまず見つけてほしいんです」
 
「子どもたちを観察してると『キタ、キター!』って瞬間がある。その時を見逃さずにスイッチを押す、言葉をかける。子育てと一緒ですよね」
 
いつか自分の絵本を作りたい、が夢。
そのためにもイタリアはボローニャで開かれる、世界を代表するコンクール「国際絵本原画展」に挑戦することが今の目標でもある。
 
「好きな仕事にうち込む後姿を、自分の子どもたちに見せられる。それも母として最高にうれしいんです。これからもずっと誰かの心に響くような絵を描けるように頑張っていきたい」
 
 

2017/7/7 取材・文/花井奈穂子 写真/ 小田原大輔