私的・すてき人

命を投げ出して歌う 必ず想いは伝わるから

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シャンソン歌手

きたおか みき

北岡 樹さん [大阪府堺市在住]

公式サイト: http://ameblo.jp/mikikitaoka/

プロフィール

1950年 福岡県出身 大阪・北野高校卒業
1997年 シャンソニエの老舗「べコー」のオーディション合格がきっかけで 歌手に。
各地でライヴやリサイタルをする一方CDも発売。
昨年は中国・青島でもコンサートを。

「私にできることはなんやろ?」
いつも、いつも自分に問いかける。
「人のために、社会のために、私がやれることってなに?・・・」
昨年11月に出したCD「ぶたないで」が、静かな話題を呼んでいる。
幼児虐待やDVはもちろん、ツラい思いを背負うすべての人に送るメッセージ。
自費製作、今のところ販売もナシ。100枚ずつセッセと作っては、欲しい人に配る・・・という、まさに手作りCD。
だが「楽譜がほしい」「歌いたい」と、少しずつ共感の輪が広がってきている。

寂しさから救ってくれたシャンソン

シャンソンとの出会い。それは“寂しさ”とつながっている。
泉北のマンションに引っ越してきたのは、まだ娘さんが3歳の時。周りはどこも共働き、友だちもいなければ話をする人もいない。「娘とふたり、ポツンと孤島にとり残されたようなもの」。
そんな時出会ったのがシャンソン。
寂しさとストレスで追いつめられた彼女を、暗闇から救いあげたのだ。

シャンソンを習い始めて3年、人生の転機がやって来る。
友だちに背中を押され、大阪の老舗ライヴハウス「べコー」のオーディションを受けることに。
「通るなんて思ってないから、楽しくってしょうがない」と面白がっているうちにテープ審査、1次、2次とドンドン勝ち残り、思ってもいなかった“歌手”になってしまったのだ。
遅咲きながら“実力派”、しゃべくりもオモロい・・・と次第にファンが増え、昨年は中国でのコンサートも実現させた。

今やれることを命がけで

もうひとつの転機は、昨年の夏子宮ガンを患ったこと。
「手術が成功したって、5年経たないとわからない。生存率は100%じゃない」という医師の言葉に、
「人間誰だって、生存率100%なんかじゃないやん!今元気だって命には限りがある。ほんまに生きてるうちや・・・」。当然のことに改めて気づく。
そこから「ぶたないで」も生まれた。6年前歌ったきり、ライヴでも披露するチャンスの無かったこの歌を、
シングルカットすることに決めたのだ。
「私にできること」は、歌で問いかけたり、人を癒すこと・・・。

もちろん赤字だが、会場に置いた募金箱にコインを入れてくれる人も増えて
「もっと貯まったら、虐待やDVに苦しむ人を支援する団体に寄付したいなと思ってるの」と北岡さん。
今やれることを命がけでやりたい。命を投げ出して歌えば、必ずメッセージは伝わる・・・。

意外や彼女のもうひとつの顔は、この道20年のベテランヨガ教師。
「体の不調や痛みは、心が原因。精神が体をつくっている」と生徒たちにいい続ける。娘さんのアレルギーや喘息、自らの不調もたいていの事ならヨガで治してしまう。
「人の“気”は伝染するもの。人は魂でつながってる」。だからこんなに素敵なんだ、楽しいんだという想いをこめた歌は、聞いている人を楽しくさせる。「命がけでやれば、なんだって伝わる。愛やアツい想いもね」

2007/08/02 取材・文/花井奈穂子 撮影/小田原大輔