私的・すてき人

“石鹸”は新しい世界にリンクするためのキーワード

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「ユノカ・ソープ」代表

はない ひでのり

花井 英典さん [大阪府堺市在住]

公式サイト: http://www.junocasoap.com/

プロフィール

1967年 堺市出身 
1991年 早稲田大学政治経済学部卒業
2001年 7年間勤めた会社を辞め、友人とともに「ユノカ・ソープ」を設立

旅が好き、モノづくりが好き。
だったらそれを仕事にしてしまおやないか……そんなノリでスタートした「ユノカ・ソープ」

「おんなじ人生なら好きなことしたい、オモシロイもん作りたい」
山羊の初乳、杉の葉、林檎酒、黒米の米ヌカ……なんやそれ?っていうものを世界中から見つけてきては石鹸に変身させてしまう。萌黄、蜂蜜、藍色…自然ゆえのふんわりした色とデザインには、いつか食べた和菓子の甘さが漂う。
「僕にとって石鹸はひとつのキーワードなんです。素材を探す旅のなかで、たくさんの人に出会ってネットワークが生まれる。そこから今まで見えなかった人や技術がリンクしてつながっていく。それこそがオモシロさ!」
次々生まれてくるユニークな石鹸たちには、彼が旅で出会った人々の熱い思いや、土地に根ざした物語がつまっている。

生産してる人の顔が見える、それがモットー

「もっと旅がしたい!」と、7年間勤めた会社をあっさり辞めた。
その頃、会社の同期だった山本豊子さんという女性がひと足早く退社して、版画作家として活動していた。彼女の工房で当時ブームになっていたのが“手作り石鹸”。
山本さんがアトピーだったこともあって、出来あがってきたのは天然素材で保湿力が高く、使ううちに肌のチカラが養われるスグレモノだった。
「これはイイかもと。しかも素材を探すいう名目で世界中を旅できる!(笑) これ商品にできるよ、会社にしたら面白いんちゃうって彼女にけしかけたんです」

それまで自分のためにだけ細々と作っていた石鹸も、商品化するとなると一定の量を効率的に作る必要に迫られる。そこでまずイギリスの「ナチュラルソープ社」を訪れ、日本とは違って小さな工場で手作りするノウハウを知った。「もともと欧米なんかでは、“お母さんの石鹸”いうのがあるんですよ。日本でいう手前味噌みたいなもの。牧場で飼ってる牛のミルクやオイルなんかをブレンドして我が家の石鹸を作ってたんです。ああ、これやったらできる、イケるって思いました。街のケーキ屋さんみたいなもんなんです、大企業みたいに工場持たんでも個性的ないいものは作れる」

こうしてユノカがスタート。「生産している人の顔がきちんと見える材料で作る」をモットーに、小さなキッチンでの石鹸への挑戦が始まった。

モノ作りの技術を出会わせたい

アンテナに引っかかってきたものがあると、とにかく現地へ飛んで足で取材する。
アジア、ポルトガル、イギリス、カナダ…旅の途中で出会った素材には、必ずその土地に息づくチカラや歴史がある。

それは国内でも同じ。福島は阿武隈の有機無農薬で作られているエゴマ、湧き水と薪で蒸し溶剤を使わずに絞る五島列島の椿油、吉野黒滝村の手作業で作られる葛……どこまででも追い求め、そこでの出会いが作品になる。毎年「山羊サミット」を主催する長野牧場を訪れた時には、たまたま余っていた初乳をもらってそこに様々なオイルをブレンドし、今では定番の人気商品を作ってしまった。
その他にも梅を黒糖焼酎と蜂蜜につけた梅酒の石鹸、杉の葉から抽出した杉葉水と酒かすで仕込んだもの……とシーズンごとに生まれるアイデアいっぱいの新作はまさに“ユノカワールド”。

素材のアイデアや広報が彼の担当なら、実際にそれを形にしていくのは山本さん。毎回不思議な素材をブレンドして仕上げていくのは、未開の地にひとり挑むようなもの。「大変やと思います。(笑)新作ができるのにだいたい2ヶ月はかかる。1種類せいぜい数百個限定、売り切ってしまえる量しか作れません」

だが一方で、彼のなかで“石鹸”というワードは、新たなドアを次々と開けるためのカギのようなものだ。ネットワークを通して、モノ作りの技術を持った人たちを出会わせたい。そこからまた化学反応が起きて面白いものが生まれるやもしれない。少しベクトルを変えれば魅力を社会に発信できるかもしれない。

そしてその思いは、自らの住む堺の町づくりにも通じていく。「堺は茶の湯や南蛮文化、鉄砲や陶器のモノ作り技術…と素晴らしいとこがいっぱいあった。でもそれが全部昔話で終わってしまって、現代に生かせてない。例えばお香、これもかつては堺がメインやったのに今ではほとんどが姿を消した。ちょっと面白さをプラスして、若い人たちにシフトすれば現代に根づいていくのに……ニーズは自分たちで作っていくもの。これからは堺文化の底上げにもかかわっていけたらと思ってます」

2009/02/28 取材・文/花井奈穂子 写真/ 小田原大輔