私的・すてき人

子どもたちが達成感を感じられる、そんな自転車を作りたい

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(株)ソシード技研 代表取締役

さかうえひろゆき

阪上 博行さん [和歌山県在住]

公式サイト: http://www.soceadth.co.jp/

プロフィール

1949年 泉南郡熊取出身
1984年 ナショナル(現パナソニック サイクルテック)を退社後、「ソシード技研」を設立。オモシロ自転車の設計・開発を始める
2007年 動力を使わないサイクルフォークリフトを製作  また、公道も走れる立ちこぎ自転車「ベロウェイ」も開発、まもなく発売される。

夢をカタチにする力――それを情熱というなら、彼の人生はとっておきの情熱に満ちている。
誰もが一度はワクワクしてペダルを漕いだ、あのオモシロ自転車。水陸両用、2人ペア車、ゴーカート自転車・・・そんな“まさか!?”のサイクルを世に送り出してきたのが、なんとこのオジサンなのだ。

しかも熊取の小さな工場で、たったひとりアイデアを練ってはヘンテコな自転車を作り続けて26年。「関西サイクルスポーツセンター」でもすっかりおなじみのユニークな自転車だって、彼が手作業でコツコツ生み出した、いわばわが子のようなもの。

少年の日の夢をカタチにしてしまう、アイデアと技術力。オモシロイもん造りたい、楽しいもん造りたい・・・その思いがいつも彼を動かしている。

自宅の駐車場からのスタート

なんと制作した自転車は330種!まさにパイオニア、ただ今ギネスも申請中だ。

どこからその“自転車ひとすじ”人生は始まったのか?
そもそものきっかけは11年間勤めた会社で、自転車の設計や開発の担当になったことだった。その時、変り種のサイクルやゴルフカートなど様々な依頼を受け、手さぐりであれこれ試行錯誤を重ねるうち次第にその魅力にはまっていく。

だが、一方でサラリーマンならではの忙しさに、ストレスはたまるばかり。「その時思ったんです。子どもにもまだお金がかからんし、イチかバチか辞めるんやったら今や!って。ひとりで自由に自転車作りたくて会社辞めてしもたんです」

「なんとかなるやろ」とさっそく自宅の駐車場をつぶして造った、小さな夢工場で“職人”の道をスタート、34歳の時だった。
それから1年3ヵ月後「播磨中央公園」から、子どもたちが楽しめるオモシロ自転車の依頼が舞いこむ。「そりゃあホントに嬉しかった!やっと来た!って感じでした」

思いをカタチにするまでは、半年近く寝ても覚めても頭のなかは「ずっと自転車の設計のことばっかり。オクサンが話しかけても全然聞いてへんから、『ほらまた聞いてなかったでしょ』って怒られるんですよ(笑)」
それからというもの動力はいっさい無し、パイプやチェーンだけでコーヒーカップサイクル、シーソーサイクル、親子向かい合わせサイクル・・・・・・とクスッと笑ってしまうような乗り物の発明を次々続けてきた。

「ベロウェイとオモシロ自転車の里」を作りたい

生み出した数限りない乗り物のなかでも、いちばんの思い出はふたりがペアで乗れる「バイバイサイクル」。
娘さんの住むニュージーランドで展示会を開いた時、「せっかくやから」と視覚に障害のある子どもたちの学校にこの「バイバイサイクル」を寄付することに。
するとたくさんの親子が一週間交代で、取り合うようにこの自転車に乗って歓声を上げ、顔を輝かせた。
「目が見えなくったって自転車に乗れる、みんなと同じように風を感じて走れる。そういってくれた時、今まででいちばん、もうメッチャクチャ嬉しかった!」と顔はクシャクシャ。

2年前には自転車だけでなく、こぐ力だけで荷物を運ぶ「サイクルリフト」も製作。さらに今度は実際に道を走れる、立ちこぎサイクル「ベロウェイ」も開発。これからはテーマパークを飛び出して、街にもちょっとオモロイ自転車が走ることになるかも。エコの風が吹いてきたこともあって、話題になりそうだ。

「今の子はゲームばっかりで、自分の体を使ってクリエイティブなことをしようとしない。そもそも自転車に初めっからスイスイ乗れる子なんていないでしょ。練習してころんでうまくなっていく。ベロウェイも乗りこなすにはコツがいるんです。だからちょっと苦労して乗りこなしてくれると嬉しい。これからもそんな達成感を感じられる乗り物を作っていきたいなあ・・・」 ちなみにベロとは、ラテン語で自転車って意味なんだとか。

現在進行形の夢は「ベロウェイとオモシロ自転車の里」を作ること。
熊野古道にほど近い、和歌山は北山村に、ベロウェイで自由に走り回れる公園を作りたいと奔走中だ。子どもだけでなく、お年寄りも楽しめるようなパイプや木で作ったスポーツ器具もおいて、「520人くらいしか住んでいない田舎なので“村おこし”にもなってくれたら・・・秋にはプレオープンにこぎつけたいと思ってるんです」

2009/06/25 取材・文/花井奈穂子 写真/ 小田原大輔