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私的・すてき人

アートと伝統、どちらも僕にとってはかけがえのないもの

File.065

竹芸作家

たなべしょうちく

田辺小竹さん [大阪府堺市在住]

公式サイト: http://www.shouchiku.com/japanese/top.html

プロフィール

1973年 堺市出身。竹芸三代目 田邊竹雲斎の次男として生まれる
1999年 東京芸術大学 美術学部彫刻科卒業 
2006年 田辺小竹襲名 世界各地で個展やワークショップを開催
2010年 「伊勢神宮式年遷宮」の制作を手掛ける

2メートル以上もの、ド迫力オブジェをなんと竹で編みこんでいく。まるで異次元に通じる巨大ホールのような作品たちは、「竹工芸」の持つ“地味な伝統”というイメージを鮮やかに裏切って、私たちにサプライズと無限の可能性を感じさせてくれる。

「伝統を次世代に受け継ぐこと。そしてもうひとつは現代アートで自分を表現すること。僕にはその両輪ともが大切なんです」

何百年も続く“和”を地道に受け継ぎながら、一方で竹の魅力を斬新な手法で世界に発信していく。ふたつの世界を自在に操る彼は今、竹芸に新しい時代を切り拓こうとしている。

世界で勝負をしてみたい

生まれた時からいつも、そこに竹があった。
明治時代から代々続く竹細工の名家。親から子へ、子から孫へと技術を伝える一門は、この田辺の家を含めもう数軒しか残っていないという。

「幼い頃からいつも仕事場の竹で遊んでましたし、当然僕も竹をやるんだと疑いもしなかったんです」
ところが東京芸大に進み、彫刻の面白さに魅了されるなかで、ふと浮かんだ「自分は何がしたいんだろう」という疑問――定められたレールの上を歩いていた彼に初めて訪れた、誰もが一度は通る“青春の迷路”。テントを担いでヒッチハイクの旅に出たり、外国を放浪したり・・・「2年ぐらいかかって、やっと答えが出たんです。“竹”は自分のなかにある、竹という素材でモノを造る時一番自分を表現できるって。それでやっと腹をくくったっていうか・・・」

卒業後は別府の「竹工芸支援センター」で技術を学んだ後、父のもとで「割り3年、編み7年」といわれる修業を続けながら、一方で竹の彫刻など独得の作品を発表していく。

そんなある日、彼の人生にひとつの転機が訪れる。アメリカはフィラデルフィアの美術館が開催する「クラフトショー」に招待されたのだ。
そこは見たこともない華やかな世界――「着飾ってリムジンで乗り付ける人たち、ハリウッド映画かと思うようなゴージャスなパーティー。日本じゃありえない、こんなスゴイ世界があったんやって、もう心が震えて。まさにアメリカンドリーム、ああここで勝負してみたいって思ってしまったんです」。
それからは世界を見据えた創作活動がスタート。アメリカはもちろん、オランダ、カナダ、ニュージーランド、南米・・・と各地で個展を開き、デモンストレーションや講演を行っては竹芸の素晴らしさを紹介してきた。

竹を通じて人とつながる、それが魅力

伝統と名のつくものに、ラクな道など無いにひとしい。修業はシンドイ、長く厳しい、暗い・・・だから若手も敬遠して寄りつかない。若い世代が振り向かないから、やがて時代に取り残されていく・・・・というのが、伝統工芸と呼ばれるものの宿命でもある。
だが、竹を工芸としてだけでなく、空間アートとして魅せていく彼の手法は、これからの新しいスタイルを提案しているようにも見える。

「たしかに修業はキツイです。何十種類もの編み方を覚えるだけで10年はかかる。でも同時に夢もある。僕は竹のおかげで世界中を旅できるし、いろんな国の人とも友だちになれた。竹が無かったらこんな幸せには巡り会えなかったはず。竹を通じて人とつながれる、それが一番の魅力です。だから僕は修業は大変やけど、同時に夢も叶えられるんだよという、新しい“モデルケース”になりたいんです」

作品のテーマは「つながり」。母の胎内とへその緒を表現したもの、命や絆のエネルギーを表現したもの・・・彫刻というアート出身だからこそ表現できる、今までとはまったく違う発想と大胆な構図。
「自分が出会う人、場所、どれも偶然じゃなくつながってると思うんです。すべてに表と裏があるように、陰と陽、いい事と悪いこと全部つながってる。僕がここに生まれた意味も含めて、そのつながりを表現していきたい」

一方で20年に一度すべての神宝を造りかえる「伊勢神宮式年遷宮」の制作4点も任され、その技術を後世に伝える責任もキッチリ果たす。
「日本にしかない竹の文化を継承していくことには、絶対意味があるはず。だからこの神秘的な美しさを若い人たちにもっと知ってほしいし、そのためにも僕らしいやり方で竹の魅力を発信していきたいんです」

2010/05/10 取材・文/花井奈穂子 写真/ 小田原大輔