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私的・すてき人

5%でも可能性があるなら挑むべき。それが新しい道を開く

File.072

「泉北ニュータウン学会」会長、和歌山大学名誉教授

おだ あきら

小田 章さん [大阪府堺市在住]

公式サイト: http://www.senbokunt.jp/

プロフィール

1943年 大阪市出身
1970年 神戸大学大学院経営学研究科 修士課程修了
2002年 和歌山大学長就任
2007年 「泉北ニュータウン学会」会長に 
2010年 和歌山市長選出馬  和歌山社会経済研究所顧問ほか多数の役職を歴任

“改革の人”である。
ユニークなアイデアと、それを3Dにしてみせるニクい戦略――四面楚歌ともいえるような状況のなかで、和歌山大学の新しい目玉として「観光学部」を誕生させた手腕、そして地元再生のために次々仕掛けを打ち出す発想力。

「1割、いや5%でも成功の確率があるなら、絶対やってみるべき!だってやってみなワカランでしょ。机上の論議ではダメなんです」
「何かを変えようとするなら命がけでやらんと。いつかやればいいなんて考えてたら何もできない…」 次々飛び出してくる言葉はどれも、とても学者さんとは思えない、まさに地域のために奔走する熱血プロデューサーそのものなのだ。

奇策で生まれた観光学部

ここ数年、大学はかつてない“生き残り”をかけた、戦国時代に突入しているといってもいい。少子化で学生が確保できない、ゆえに力のない大学は定員割れし経営が成り立たない。さらに国立といえども、法人化に移行したため今までのようには国から運営交付金等を得られない、かといって人員削減もままならない。そのため面子を捨ててでもなんとか実を残そうと、さまざまな形での統廃合が進んでいく…という現実がある。

和歌山大学もまた、経済、教育、システム工学という3学部しか持たない地方大学として、この荒波を超える策を模索しつつある時だった。まさにそんなタイミングで学長という椅子が回ってきたのも、時代が彼を見込んで呼び寄せたのかもしれない。

「きっかけは学長に就任して、議員の方々にあいさつに行った時のこと。すぐに『観光学部を作らないか』といわれたんです。和歌山が観光立県を目指していたこともあって、ならやってみましょう!と…」

ところが“改革”に反対はつきもの。「そんなもん無理や、やめとけという人間がほとんど、学部どうしの駆け引きやらいろんな壁があって、なかなか実現しない。でも私がいるうちに作ってしまわんと絶対無理、あきらめたら先は無いと思った…」

そして、そこからが彼の真骨頂。反対勢力だらけのなかをアイデアと頭脳戦で突き進んでいく。「大学をもっと知ってもらうために、まずは月に一度の定例記者会見を開く!と宣言したんです。もちろん周りは誰も来るわけないからやめろと…。でもやってみなわからんでしょ、いざフタを開けてみたらなんと16社も来てくれたんですよ」

そしてその会見後ポツリ、「実は観光学部を作りたいなあ…と思うんです」  あくまでも自らの思いとして何気なく記者たちにコメントすると、翌日それは新聞の見出しを飾り、外部からの大きな賛同を得ることに成功。まさにマスコミをうまく味方につけた本人いわく“確信犯”、ここから「観光学部誕生」に向けて歯車は大きく動き出したのだ。

大事なのは“非日常”を作り出すこと

そして4年前、ついに観光学科を設置、翌年には観光学部として独立させた。国立でこの学部を有するのは、全国でも二大学だけというオリジナリティは、今や大学の大きな武器として注目を集めている。
「いつかここの卒業生が国連や海外の企業に、日本を背負って出ていく日が来てほしい。日本の文化や伝統を世界に発信していってほしいんです」

さらに人口減少、高齢化などで活気を失いつつある和歌山を再生させたいと、さまざまなアイデアも提案してきた。学生たちを地域に送りこんで、高齢化をまさに逆手にとって高齢者らの知恵を借りながら、ともに再生へのビジネスモデルを作っていこうと立ち上げた「地域インターシップ計画(RIP)」もそのひとつだ。

「大事なのは“非日常”。他とは違う、ここにしかない魅力があるからこそ人がよべる。たとえば古民家を買い取り宿にしたことで、人気に火がついたスポットだってある。ここには和歌山城、紀三井寺、参詣道…たくさんの歴史や世界遺産がある。古城をホテルにして人気をよんでいるヨーロッパのように、奇抜だけれど城をホテルにしたっていい。つまりは“温故知新”、古いものを上手に生かして“非日常”を作り出す。それが大事なんですよ」

一方で自宅のある泉北ニュータウンにも熱い思いがある。
誕生から40年以上がたって、こちらも高齢化や人口減少が進むとともに近隣センターや商店街はさびれ、福祉、介護…とさまざまな問題が噴出している。
数年前から住民と彼のような学者や専門家、そして自治体を巻きこんで、街の再生に取り組もうという「泉北ニュータウン学会」の会長も務める。

「障害があっても年老いても、安心して暮らせる――そんな街にしないと。今大事なことのひとつが大家族主義の復活やと思ってるんです。子育ての問題、虐待、孤独死…みんな核家族ばかりになってしまったことから生まれてる。空き家になってる団地をリニューアルして家族で住めるようにとか、色々策はあるはず。戦後60数年間、日本社会に浸透してきた“捨てる・壊す文化”から、今こそ“残す・守る文化”へという発想の大転換が不可欠!ここにこそ再生の道があるんです。泉北に活気を取り戻すためには、またひとつ新しい仕掛けを考えんとね(笑)」

想いを語り出すと止まらない。その熱さと一方で奇抜な戦術を駆使して“改革”を進めていく巧みさ。わが街泉北がこれから彼の手でどう変わっていくのか、ちょっとワクワクする。

2010/11/25 取材・文/花井奈穂子 写真/ 小田原大輔