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HOME > 私的・すてき人一覧 > 横尾 将臣さん

私的・すてき人

亡くなった方の人生を遺族に伝える、僕にはその使命がある

File.073

「メモリーズ」株式会社 代表取締役

よこお まさとみ

横尾 将臣さん [兵庫県西宮市在住]

公式サイト: http://www.ihin-memories.com/

プロフィール

1969年 大阪市出身
1987年 羽曳野高校卒業後、ラグビーで「本田技研」入社
1990年 ケガで退社後 サックス奏者として活動を始める
2007年 堺区に遺品整理専門会社「メモリーズ」を設立

“孤族”の時代といわれる。
 
本来支えあうはずの“家族”が崩壊し、高齢のひとり世帯が否応なく増え続ける。
そして訪れる孤独死、自殺、餓死…。
 
しがらみからの解放や自由を追い求めた、時代のツケが回ってきたかのように、日々突きつけられるのは過酷を極める現場だ。
 
「遺品からその人の生き様が見えるんです。たくさんの手紙や写真、コレクション…それを遺族の方に伝えると『こんな一面があったんや』って、驚かれて故人を見る目が変わる。亡くなった方の人生を、残った家族に伝える…僕にはその大きな使命があると思ってます」
 
あまり人が見たくない“闇”を片付け整え、かわりに誰も気づかなかった人生の深みに光をあてる…彼は、今という時代が呼びよせた“仕事人”なのかもしれない。
 
 

有難うという言葉、それがモチベーションのすべて

きっかけは祖母の死だった。
入浴中の孤独死…そしてその遺品をかたづけていた母が、あまりの大変さに体調を崩し「遺族はこんなにシンドイ思いをしてたんや、だったらかわりに遺品を整理してあげることで遺族の力になれるなと思ったんです。これを仕事にしたいなと」
 
高校を卒業してからの十数年は、スーツとは無縁に自分の好きな道を歩いてきた。
高校時代にラグビーで大阪選抜に選ばれ、そのまま本田技研へ。そして数年後ケガで選手を断念せざるを得なくなった時も、安定よりは自由で楽しい道へ…。
一度聞いただけですぐ曲が弾けてしまうという、もって生まれた音楽センスで小学校のころから吹いていたサックス。それを手に上京、プロの演奏家としての道を選んだのだ。
 
「あの10年は楽しかったし、いい思い出。でも母が病気になって、そろそろ戻らなあかんなあと。大阪に帰ってきてやりたい仕事を模索している時、この遺品整理に出会ったんです」
 
当時聞きなれない「遺品整理」という仕事を、日本ではじめて手掛けていた「キーパーズ」という企業に入社。そこでさまざまなノウハウを学ぶことになる。
「入ってみてビックリ!背広で書類整理でもするんかなあと思てたら、すさまじい現場でのキツイ仕事が待ってたんです(笑)。でも、その時遺族の方がほんとに喜んでくれたんですね。こんなに喜んでもらえる、ありがとうっていってもらえる、あれがモチベーションのすべてになった」
 
そして2年後独立。
「仕事を通じて社会に貢献したい」という思いから不要となった遺品は買収し、リサイクルしてなるべく施設や海外ボランティアへの寄付にあてる。そうすることで処分代が大幅に減り、それはそのまま料金の安さにつながる。誠実な人柄と価格の安さで、今では月に数十件もの依頼が来るという。
 
 

孤独死を防ぐために

一方で今取り組んでいるのが「福祉整理」という分野だ。
「孤独死は、ゴミだらけの中で亡くなっているケースが多いんです。うつ病の人も多くて、病気や年齢のせいで片付けられない、捨てられない。足の踏み場がないほどのゴミと臭いや、発生する虫…そんな現場を見ると、ここをなんとかしていたら死なんですんだんちゃうんかなと思うことがしょっちゅうだったんです」
 
孤独死を防ぐために、快適に暮らしてもらうために、部屋を清掃し自身では出来ない不要なものを整理する。まだまだ聞きなれない分野ではあるが、進む高齢化のなかで確実に需要は拡大しつつある。
 
「行政や家族からの依頼は増える一方で、うちだけでは限界がある。だからもっとこの福祉整理の看板をあげる会社が増えて、全国にその輪が広がったらいいなと。もちろん、安くて大変な仕事やけど、そうすればゴミ屋敷のなかで亡くなる人もグッと減るはず」
 
亡くなって1、2週間経ってから発見されることも少なくない孤独死。
遺品を整理するというだけでなく、消臭、特殊な清掃…と目をおおうような凄惨な現場での仕事を続けていけるその原点は何なのか―。
 
「遺族は、なんで何もしてあげられなかったんや、気づいてあげられなかったんや…ってみんな後悔してるんですね。泣きながら立ち会う方も多い。でも部屋に何もなくなって整理が終わると、ああこれで吹っ切れたって表情になる。ほんとに涙を流して有難うっていってくださる。それが私のやりがいだし、誇りなんです」
 
大家族で助け合うことがあたりまえだった時代、起こることがなかった事件や悲劇は日々増え続ける一方だ。
家族であることの煩わしさを嫌ったがゆえに私たちは今、孤独というやっかいなものを背負い込まねばならなくなった。子供への虐待、介護の問題…すべて核家族化から起こっているといっても過言ではない。
 
「この仕事をしていて思うのは、人と人の“縁”がどんどん薄くなっていってるなあということ。親子でもめったに連絡をとらない。近所とも付き合いがないから、隣人の異変に気づかない。少しでも地域とつながっていれば、悲劇はもっと減ると思うのに…」
 
近所づきあいの大切さ、家族がつながることの大切さ…“おひとりさま”の自由や気楽さの裏に潜むたくさんの問題を、今あらためて考え直さねばならない時が来ているのだろう。

2011/01/28 取材・文/花井奈穂子 写真/ 小田原大輔