私的・すてき人

おむすびで泉州を元気にしたい!

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オトメゴコロ泉州おむすび 代表

よしもと のりこ

義本 紀子さん [大阪府泉佐野市在住]

公式サイト: http://ameblo.jp/otomegocoromusubi

プロフィール

1976年 泉佐野市出身 
1999年 京都造形芸術大学デザイン学科卒業 フリーのクリエイティブデザイナーに
2009年 泉州おむすびの販売をスタート
2010年 泉佐野ふるさと町屋館(旧新川家住宅)にて「タタミ一畳マーケット」「ふろしき手づくりマーケット」を主宰
2011年 泉佐野駅近くに「オトメゴコロ泉州おむすび」工房を開設

なんと“町おこし”のキーワードは“おむすび”―――

犬鳴ポークに泉ダコ、木積のタケノコにえんどう豆、そして主役はなんといっても、香り高くてもっちもちのお米……出てくる、出てくる!ちいさなおむすびにギュッとつまった、泉州のうまいものたち!
わが泉州に、こんなにも美味しいものがあったんや……

「そう!それを知ってほしいんです!ここならではの素材でにぎったおむすびで、泉州と人を結ぶ……そうひらめいた時、私のやりたかったことはこれやったんや!って、心も体もアツくなりました(笑)。これはもう一生の仕事、80歳のおばあちゃんになっても、にぎり続けていたいです!」

町おこしの活動は数々あれど、たったひとりで、自らのアイデアだけを頼りに挑んでいく、その情熱とバイタリティはまさにオンリーワン!
小さなおむすびが、いつか泉州を変える大きな力になる日が来るかもしれない。

人生が楽しくなる予感

たくさんの町おこしがある。

だが、時とともに資金や人手不足に疲れ、そのほとんどは失速し、いつか姿を消していく。
ヤル気だけではどうにもならない課題―それを、あふれるように湧いてくるアイデアと実行力で、軽~く飛び越えてしてしまえるのが彼女のスゴイところだ。

「町おこしは、国や自治体の助成金を頼りにしているとこが多い。でもそれじゃ、お金が切れたとたん、何もできなくなってしまう。だったら助成金に頼らずにやれる方法はないかって思ったのがはじまりなんです」

もともとは芸大卒のクリエイティブデザイナーだった。
彼女の人生が大きく動いたのは、5年前。フリーで仕事をしながら、何気なく市の外郭団体「公園緑化協会」のアルバイトに応募したのだ。

そこで発見したのが地元、泉州の豊かな自然と歴史、海や山からとれる素材をもとにした特産品のおいしさ。
「田んぼを耕したり、町おこしのボランティアを手伝ったりするうちに、初めて泉州ってこんなにいいとこやったんやって気づいたんです」

それはもう、目からウロコ。
「わざわざどこかに観光に行かんでも、いいとこいっぱいあるやんって。犬鳴山の滝、水間寺、池上曽根遺跡や一面に広がる田んぼ……ほっこりする魅力にあふれてる。この泉州の素晴らしさを伝えて、もっと人の集まる場所にできへんやろか…」

特に地元・泉佐野市は、関西空港ができたにもかかわらず、財政は火の車。市の命名権を売却してスポンサーを集めようなどという苦肉の案がでるほど、街は活気を失い、産業は停滞する。
「私に何ができるやろ……」

そう思い始めた時、友だちに誘われて、神戸で開かれていた地球の未来を考えようという「アースデイ」というイベントをのぞいた。
「いろんなお店が出てて、私らも来年ここに店出したいなあ…って話から始まったんです。じゃあ、おむすび屋をしようか!となって」

だが、思いついたらその場で走り出さずにはおれない彼女、もう一時もじっとしていられない。

「おむすびなら地元の食材でできるんちゃうか…と考え出したら、ひとりで暴走してしまった(笑)まるで学園祭のノリ!来年、どうやったらイベントに店を出せるやろか……って頭のなかはそのことでいっぱい…」

いきなりおむすびをにぎって、近くの臨空中央公園に通い始めるというスタートダッシュの良さ。「さあ、私の人生これから絶対楽しくなるわ!って、ワクワクが止まらなかったんです」

おむすび万博を開きたい

「とはいうものの、公園で一日店を開いていても、全然売れない日が続いたり……ちょっとヘコんだことも」

一年くらいそんな日々を送るうち、江戸中期の町屋を保存・再現し、今は指定文化財にもなっている地元の「ふるさと町屋館」(旧新川家住宅)で、月一回開かれる朝市に参加するようになる。

すると今度は「町屋の良さを知ってもらえるようなイベントできへんかなあ」という思いがムクムクとわいてくる。そして生まれたのが、町屋館の広い畳の間を生かした「タタミ一畳マーケット」。
「みんなが楽しめて、町屋館も盛り上がる。もちろんおむすびも知ってもらえる(笑)これはいいなと」

さらに思いおもいの風呂敷を広げて、そのスペースに手作りの作品を並べて売ろうという「ふろしき手づくりマーケット」、最近では「手作り男子マーケット」と、次々アイデアをカタチにしていくのも彼女ならでは。

江戸時代の豪商宅が舞台というユニークさも手伝って、二年たった今ではすっかり地元に根付き、多い時には400人もの人で賑わうようになった。
「イベントで偶然出会ったオバちゃんに珍しい食材を教えてもらったり、貝塚の木積においしいお米作ってる農家あるよって紹介してもらえたり……で、食べてみたらメッチャクチャおいしい!今では無くてはならないものばかり!」

いかなご、梅、海苔、たまねぎ、塩……気づけば泉州のあらゆる美味しいモンが、彼女に呼ばれるのを待っていたかのように集まってきた。泉州ものだけでにぎるアイデアおむすびは、40種を超える。
「たくさんの出会いがあって、どんどんつながっていく。食べてくれた方からも『おいしかったよ』って言葉をいただいて、また輪が広がっていく。もう毎日が楽しくて、楽しくて……ああ、私の一生の仕事ってこれやったんやなあとつくづく思います」

屋号の「オトメゴコロ」は、かつて実家が経営していた酒造会社の商品名。「名前だけでも残したい」と、日本酒「乙め心」からネーミングしたのだが、これがまた女手ひとつで頑張る彼女にピッタリ。

いつか大阪市内や関西空港にも広げて、泉州の魅力をアピールしたいと思いはふくらむ。
「ボチボチでいいから長~く続けていきたい。そしていつかおむすび万博を開きたいんですよね。世界のおむすびが集まったら楽しいやろなあ。もっともっと泉州ブランドを盛りあげていかんとね」

2012/10/1 取材・文/花井奈穂子 写真/ 小田原大輔