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私的・すてき人

鷹の爪を守ることは僕の使命。最高の唐辛子で日本一のモノを作りたい

File.110

和風香辛料「やまつ辻田」 代表取締役社長

つじた ひろゆき

辻田 浩之さん [大阪府堺市在住]

公式サイト: http://www.yamatsu-tsujita.com/

プロフィール

1962年 堺市出身
1984年 法政大学英文科卒業 近畿大学泉州高等学校の教師に
1993年 家業である「やまつ辻田」に戻り、七味職人としての腕を磨く
1999年 剣道場「東陶器春風館」を開館
2006年 同社代表に就任

「日本一のモノをつくりたい!最高の素材と配合で作りあげた“宝物”で、店をいっぱいにしたるねん!」

 

どこまでも上だけを目指す、“本気”の人である。

 

「DNAの中に唐辛子が組み込まれてる」と笑う、国内産唐辛子「鷹の爪」を百年以上も守り伝える老舗「やまつ辻田」の四代目。

 

現在流通している唐辛子の99パーセントは、意外や外国産。国内産の鷹の爪は、今や限りなく希少で「やまつ辻田」がなくなれば、江戸時代から伝わる「鷹の爪」純粋種は絶滅するとまでいわれているのだという。

 

「鷹の爪はもう自分の魂みたいなもん。これを守り伝えることは日本の食文化を守るのと一緒やと。だからこれは僕の使命やと思てるんです」

 

古きを受け継ぎ、守り続ける―――だがそれだけでは終わらない。伝統のなかにも新しいアイデアをとり入れ、時代とリンクする魅力をプラスしていく。
「もっといいモンが作れる、もっと面白いものができるはず…」
唐辛子の“伝道師”は、あくなきチャレンジャーでもあるのだ。

 

英語の教師から唐辛子の道へ

映画界にたとえれば、アカデミー助演賞というところか。

 

たった3センチの鷹の爪は、主役でもないのにその存在感たるやハンパなく、どんな料理も自分の色に染めながら、素材の旨みを引きだしていく。

 

「みんな何でもかんでも鷹の爪って呼んでるけど、これは何百とある唐辛子の一品種なんです。辛味も香りも外国産の数倍、圧倒的にスゴイねん」

 

かつて堺も鷹の爪の一大産地だった。江戸時代、あの平賀源内が「はなはだ小さくして愛すべき風情」と称したものだが、皮肉にもその小ささゆえに摘み取りに手間がかかり、採算が取れず多くの農家が栽培をやめてしまったのだという。
だが、ここで諦めては日本から鷹の爪が消えてしまう…先代のその思いは、そのまま彼に受け継がれ、奈良、広島、鹿児島…あちこちに足を運んでは農家と契約を結び、それを全部買い上げることで純粋種を守り育てようとしているのだ。

 

今では唐辛子マスターの彼も、もとは高校で「子どもたちの偏差値をバンバン上げてきた」英語教師だった。

 

「怒る時は僕の首かけてでも、徹底的に怒る。こいつの人生一回きりやから、今わからさんとアカン…そう思ったら絶対に手は抜かれへん」と、ここでも“本気”全開!
剣道七段、身長190㎝を超す熱血教師にひと睨みされたら、生徒もさぞアセッたことだろう。
「あ、この先生本気やなって生徒にだってわかる。そこから信頼も生まれるんちゃうかなあ」

 

そんな彼が家業を継ごうと決心したのは、31歳の時。
「小さい時から軒先に唐辛子があって、いつも一緒に育ってきたようなとこがあるんよね。七味と話をしながら育ったような。だからこの仕事の空気感いうのもよくわかるし、母のことも気になるしで、そろそろ僕がやらんとっていう自然な流れやったかな」

 

ここから七味職人としての修業をスタート、香辛料という新たな世界に足を踏み入れたのだ。

 

思いから1ミリもずらさない、最高のモノを創りたい

「やまつ辻田」の名を全国に広めたのが、百貨店での出張販売だ。

 

江戸の昔には、唐辛子屋が町を売り歩き、客の前で七味に調合していたのだというが、それをそのまま再現したかのような彼のパフォーマンスに、いつも客はクギづけ。

 

「国内産やからこその魅力を伝えたい。それもたったひとりでいいねん、僕はひとりの人に一生懸命話すんです。そしたらいっつも知らん間に行列ができてる(笑)」

 

数ヶ月かけて全国を行脚するのだが、毎年彼が来るのを心待ちにしているファンも多い。彼が語り始めるやアッという間に長蛇の列ができ、一人ひとりに合わせて調合してくれる“オンリーワンの七味”を手にするのに一時間がかり…ということも珍しくない。

 

唐辛子に加え、収穫に二十年はかかる実生の柚子、そして山朝倉山椒を石うすでひき、そこに丹波黒ゴマ、四万十川の海苔、麻の実、ケシの実…七つの宝石をブレンドしてできる「名代柚子七味」は、一度食べるとそのうっとりするような香りと味がクセになる。

 

「すべてが今考えられる最高の素材!スキが無いでしょ?(笑)それに季節に合わせて配合も常に変える。山椒の旬、柚子の旬、それぞれの旬にしか楽しめない香りを活かすこと…それが大事なんです」
だから調合は「注文を受けてからする」という徹底ぶりも彼らしい。

 

「こんな商品を作りたい、こんな味を創りたい…それが僕のなかにはハッキリ、クッキリあるねん。だからもっともっと上にイケる、まだまだ理想に近づける…そう思うとワクワクしてくるなあ」

 

こんな彼の思いは、幼い時から鍛錬し続けた「剣道」への思いとリンクしている。
「剣には人がそのまま出る。だからこんな剣が好きっていうのが、僕の中にはハッキリあるんです。もうメチャクチャ好きな剣がね。だからそれに向かって突き進む。モノを創るのもいっしょで、自分のなかには完ぺきなイメージがある。そこから1ミリもずらさんとモノづくりしたい」

 

「実生柚子こしょう」「実生ぽん酢」「しその粉」…次々新しい商品を送り出す一方で、七味のパッケージに切手を貼れば、そのままポストに投函できたり…と、小さな“仕掛け”もあちこちに忍ばせる。

 

「こういう遊びが楽しいねん。僕だけの秘かな楽しみ」とニンマリ。

 

これからは売るだけでなく、料理と香辛料のマッチングや楽しみ方を提案していきたいという彼。
「最高のモノを追い求めたい。それで食べた人が、ああやさしい味やなって幸せに思ってくれたら最高やね」

<2014/3/7 取材・文/花井奈穂子 写真/ 小田原大輔>