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私的・すてき人

愛情、忍耐、友情…犬はたくさんのことを教えてくれる。僕にとってこんな素敵な仕事はない

File.121

社会福祉法人「日本ライトハウス」
盲導犬訓練所 繁殖・引退担当

つちとり まこと

土取 誠さん [大阪府羽曳野市在住]

公式サイト: http://www.lighthouse.or.jp/

プロフィール

1981年 羽曳野市出身
2003年 大阪芸術大学美術学科卒業
2006年 南河内郡千早赤阪村にある「日本ライトハウス 盲導犬訓練所」に入所

盲導犬の育成が、どれほど善意のボランティアによって支えられているかご存じだろうか?
出産から始まって1歳になるまでの期間、そして現役を終えてこの世を去るまで…驚くやそのほとんどを担っているのが、無償のボランティアだという。
 
そのボランティアと犬との橋渡しとなって、日々奮闘しているのが「盲導犬訓練所」の土取さんだ。
 
「僕たちはひとつのチームなんですね。犬はコンピュータじゃないから、予想外のいろんな事が起こる。でも嬉しい時も悲しい時も、ボランティアさんと一緒になって乗り越えていく… 命を預かるという大変なことを、笑顔でやってくれはるみなさんには、いつも人としての“道”を教えてもらってる気がするんです」

盲導犬になれるのは3割

盲導犬を育てる第一歩――それは血統、性格、能力など様々な要素を考えながらオスとメスを交配させる「繁殖」に始まる。
盲導犬には、人が好きで吠えにくいこと、どこへ行っても落ち着いていられること、気が散りにくい、臆病すぎない…などさまざまな適性が求められるからだ。
 
「ちょっとガチャガチャしてるけど明るく前向きなお母さんと、静かで落ち着いてるけどちょっと怖がりなお父さんを交配してみよう…とか、個性にあわせて色々考えるんです。時には海外から連れてくることも」
 
そしていよいよマッチングを試みるのだが、そこからがまた苦労の連続。
「メス犬の排卵は年に2回しかないんです。そのタイミングに合わせてオス犬と会わせるんですけど、これがなかなかうまくいかない。走り回るメス犬を僕が捕まえちゃったりすると、今度はオスのプライドが傷ついてアカンかったり、メスの方に行かなくなっちゃったり…アセるけど人が頑張ってなんとかなるもんじゃないんで、駆け引きがほんとに難しいんです」
 

妊娠が確認されると、ここからがボランティアの出番になる。
まず犬を預かり出産させ、2ヶ月になるまで育てるのが「繁殖ボランティア」。
次は「パピーウォーカー」と呼ばれる、家族の一員として子犬に人との関わりを教えるボランティアにバトンタッチされる。
 
1歳になると犬たちはパピーウォーカーと別れ、訓練所に戻ってくるのだが、適正評価を突破できずに「盲導犬になれない」犬たちが出てくる。ここでさらに、彼らを引き取ってペットとして飼う「キャリアチェンジ犬ボランティア」が必要になってくる。
 
「半年間適性を見たり訓練をするんですが、実は盲導犬になれるコは3割くらい。後はその犬の適正で、麻薬犬になったりすることもあるけど、ほとんどはボランティアさんの家庭にもらってもらうことになります」
 

服従訓練や街へ出ての歩行訓練など、様々なカリキュラムをこなすと、いよいよ目の不自由な人のパートナーとなって、活躍することになる。そして約10年後引退の時を迎えると、今度は老後をケアし最期を看取る「引退犬ボランティア」のもとへ引き取られていく。
 
こうしていくつもの家庭の、たくさんの愛情や善意で成り立っているのが、盲導犬育成のシステムなのだ。

人の役に立つ仕事がしたい

もともとは大阪芸大出身で、アート志向だった彼。それが何故この道に?
 
「絵が好きで美術学科に入ったんですけど、実は卒業してもあんまり就職が無いんですよ。それで普通のサラリーマンやってたんやけど、なんか人の役に立つ仕事がしたいなあと思い始めて…」
 
その時ひらめいたのが、幼い頃から大好きな「犬」だった。
「好きな犬と関われて、誰かの役にも立つ。だったら盲導犬の仕事をやってみたいなあと」
 
初めはアルバイトとして入所し、犬舎の掃除や犬のブラッシングからスタート。
地味な仕事ながら「これがすっごい楽しくて、もう夢中でした。困ったのはどのコもラブラドールレトリバーなんで、全然見分けがつかない。なので一匹ずつこのコはちょっと巻き毛、とかタレ目…とかメモして見分けてました(笑)」
 

あれから8年、今では繁殖と引退を担当し、犬たちとボランティアをつなぐカナメとなって走り回る。
 
「僕にとって犬は師匠みたいなもの。愛情、忍耐、友情…たくさんのことを教えてくれる。こっちが世話してるつもりやのに、反対に人間として成長させてもらってるんです。だからこんな素敵な仕事は無い、最高やなって思います」

 
現在国内で活躍する盲導犬は1000頭あまり。それに引きかえ、盲導犬を必要とする人は、3000人を超すといわれている。
まだまだ育成が追い付いていないのが現状だ。
 
「費用と時間がかかるので、うちでも1年に20頭足らずしか育成できてません。盲導犬を待っている方はたくさんいるのに、なかなか数が増えない。それに犬は家庭での愛情やしつけが不可欠なんです。だから1匹の盲導犬を作り出すには、たくさんのボランティアさんが必要になる。ぜひ力を貸してください、ひとりでも多くの方に、ボランティアの登録をお願いしたいです」

2015/1/14 取材・文/花井奈穂子 写真/ 小田原大輔