私的・すてき人

夢を絶対あきらめなかった。だから今、大好きな場所に立っていられる

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朗読家・シンガーソングライター・童話作家

ひかりさん [大阪府堺市在住]

公式サイト: http://hikarinanairo.jp/

プロフィール

1965年 堺市出身
1985年 常磐会短期大学幼児教育科卒業 「松竹芸能新人タレントオーディション」でグランプリを獲得しデビュー
1987年 漫才コンビ結成後、吉本興業に移籍
1990年 独立し、タレント活動開始
2001年 舞台朗読をスタート 翌年から「ひかりの童話朗読コンクール」主催
2007年 自主レーベルを立ち上げ、作家活動を開始
2015年 「愛しいあなたへ」でCDデビュー決定  音読表現の指導者養成スクール「NANAIROWORLD学院」も設立

夢をカタチにする力――それを持ち続けられるのは、ほんの一握りの人間だけだ。
 
「朗読」という“自分の場所”をつかみとるために、「どんな時も前だけを見て走ってきた感じ。何があっても、夢をかなえる!そう思ってやり続けていたら、ほんとに新しい世界が見えてきたんです」
 
朗読家は多くいても、彼女の舞台がひと味違うのは、かつて芸人だったという異色の経歴があるから。
間合いのうまさ、客席の心をつかむ技術、息づかい…すべてが彼女ならではのアタラシイ風となる。
さらに自作の童話を読み、ピアノを弾き、これまたオリジナルの歌まで歌ってしまうという一人何役もの“ひかりワールド”は、まさにエンターテイメントの世界だ。
 
主婦や子育てをしながら、長い時をかけて夢をカタチにした今「大げさやけど命をかけて、物語を読んでるんです。主人公に自分の心を重ねていく…例えば『雪女』を読む時は、お雪さんを抱きしめてあげたくて、心があふれそうになる。私を表現できる場所があって、それを聞いてくれる人がいる。ああ、なんて幸せなんやろうって」
 
 

思わぬことから芸人に

20歳の時「松竹タレントオーディション」でグランプリを獲得して、芸人の世界へ。だが本人は芸人になる気など、さらさらなかった。
 
「私音楽がやりたかったんです、学生の頃からバンド組んでて。そやのに気がついたら、芸人部門で採用されてて…(笑)」
 
高校時代から司会のアルバイトをしていたというしゃべりのうまさ、そして回転の速さ…「才能はしゃべくりにアリ!」と誰もが膝を打ったに違いない。
 
それからは旅やグルメのレポーターとして重宝されたが、自分のやりたい仕事ができないという思いはドンドンふくらんでゆく。
「3年目ぐらいで漫才をやれっていわれてね。でもこれもやりたいことじゃないから、すごいシンドかったんです。でもここで逃げたらアカンと思うから、ネタ作って必死で練習して頑張ってたんやけど、だんだん舞台に上がるのが怖くなる。なんか登校拒否みたいになって…」
 

この時、事務所に所属するということは、自由が無くなることだと思い知った。
「ラクに仕事はもらえるけど、自分のやりたいことが出来るわけじゃない。これからは自分の納得のいく仕事だけをやりたい…そう思って独立したんです」
 

数年後、彼女の一目ボレで猛アタックの末に射止めたという旦那さんと結婚、なんと仕事をいっさい辞めて主婦となる。
「その頃、女性の幸せは家庭にあるって思ってたから。子どもも生まれてたしね。でもある日、たまたまテレビの仕事を受けることになって、一回だけと思ってやったんですよ。そしたら私がすごいイキイキしてたらしくて、主人が『お前復帰せえよ!子どもに輝いてるお前の姿、見せるのもいいぞ』っていってくれて」
 
そのひとことで復帰を決意。娘を幼稚園に送り迎えしながら、タレント活動を再開することになったのだ。
 

これだ!と思った朗読の世界

そんなある日幼稚園のお話し会で、童話を読んでほしいという依頼が来る。
 
3歳の年少組さんといえば、やんちゃざかり。とても座ってられないだろうと周りは覚悟していたなか、彼女が話を始めると、部屋は水を打ったように静まりかえった。
30分もの間食い入るように、彼女の本の世界にクギづけになったのを見て、お母さんたちからは感嘆の声があがる。
それからというもの、子どもたちの心をワシづかみにした、今でいう“神レベル”話芸に、あちこちの幼稚園や学校から「来てほしい」という声がかかるようになったのだ。
 
「その時、『あ、これかも!』ってひらめいたんです。これが私を表現する場所、ずっと探してたものやったんやって」
   
短大生だった頃昼は幼児教育を、そして夜はアナウンス学校で言葉を伝える技術を学んだ。さらに芸人時代につちかってきた笑いや間合いのセンス… それらがみな、ひとつの線となってつながっていく。
 
自己表現の場をやっと手に入れた彼女は、そこから一気に走り始める。
翌年からは5回にわたって「ひかりの朗読コンクール」を主催。
また大好きな宮沢賢治らの童話を読み続ける一方で、「ちいちゃんのにじ」など自作童話も発表する。
 
そしてここ数年は、心の奥底にずっとしまっていた“音楽”を朗読に盛り込みたいと、自作の曲もステージで披露。オンリーワンの世界がドンドン広がっていく。
 
「若い頃から歌が大好きだった自分がいて、本当はそのフタを開けるのコワかったの。やってみたら案の定次から次へ、頭の中に曲が出てきて、止まれへんようになってしまって…もう楽しくて楽しくて!」
ピアニスト村上亜紀ともユニットを組み、歌と朗読という独特のスタイルでライブを行う一方、ついにCDデビューという願いもかなった。
 

「自分にウソをつきたくない、自由に心が求める仕事がしたい」――だからひとり、フリーでやっていく。その思いは今も変わらない。
 
「でもラクな道を選ばなかったおかげで、今があるんやと思うんです。どうすれば売れるかとか、注目されるかとか、そんなことはどうでもいい。自分の世界をつくりたい、オリジナルを生みだしたい…その夢を守るために、選んだ道。ツライ思いもたくさんしたけど、これでよかった…これからの自分に、今ワクワクしてるんです」
 

2015/2/27 取材・文/花井奈穂子 写真/ 小田原大輔