私的・すてき人

デフバレーに光をあてたい!それこそが僕に与えられた使命

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「モラスポ」代表

たに しんいち

谷 真一さん [大阪府堺市在住]

公式サイト: http://moraspo.com/

プロフィール

1983年 堺市出身 
小学5年生からバレーを始め、中学では大阪の選抜メンバーに選出される
2001年 府立大塚高校を卒業、桃山学院大学経営学科へ
2015年 1月聴覚障がい者の世界大会「デフリンピック」の活性化を目指す団体「モラスポ」を立ち上げる  
4月株式会社パソナグループを退社、独立

アイデアは、常識を変え、やがて次代を変えてゆく。
 
聴覚障がい者によるバレーボール、「デフバレー」。名前さえ知られていないこのマイナーなスポーツを、自分の手で光のあたる表舞台に引っ張り出したい…そのアツイ思いで活動団体「モラスポ」を立ち上げた。
「『デフリンピック』という世界大会に、逆境のなかで挑戦し続ける選手たちを応援したい。そしていつか、彼らに金メダルをとってほしいんです」
 
だがそこにはスポンサーがつかない、プロリーグが無い、遠征費もほとんど出ない…そんなナイナイずくしのキビしい現実が待ち受ける。
 
全力で応援する――そう決めた時、会社を辞める覚悟ができた。
マイナーだから仕方ないと諦めてきた、たくさんの“常識”を独自のアイデアと戦略で塗りかえていく……そんな彼の挑戦は今、始まったばかりだ。
 

大好きなバレーに恩返しをしたい

小学生の時からバレーボールをはじめ、中学時代には大阪選抜メンバーに選ばれるほど。さらに高校、大学とひたすらコートのなかでボールを追ってきた。
 
「バレーは僕の人生そのもの。楽しい時もケガをしてツラかった時も、いつもバレーがあって、仲間がいた。だから今度は僕が、大好きなバレーに恩返しする番やと思ったんです」
 
デフ(聴覚障がい者)バレーを応援したいと立ち上げた「モラスポ」。モラルスポーツを略したもので、スポーツを通じてモラル、つまり道徳や倫理、そして社会の問題を解決していこうという思いがこめられている。
 

支援にも様々な形があるが、そのほとんどは休日のボランティアだったり、役所の助成金に頼るというもの。
サラリーマンという安定した場所を捨ててまでという、彼の“本気”は、どこから来ているのか――
 
「これはバレーをやってきた僕にしかできない!そう思っちゃったんですよね(笑)あまりにも整ってない環境の中で世界を目指す、彼らをなんとか応援したい。僕の力でデフバレーをメジャーにしたい。何故僕が今までバレーを続けてきたのか…その意味はここにあったんやって」
 

デフバレーは審判のホイッスル、チームメイトの声やボールのはじく音などが聞こえないなかでプレーをしなくてはならないため、コミュニケーションをとるのがかなり難しい。にもかかわらず、選手たちは各地で仕事を持っているため、練習する時間も場所も限られる。
しかも同じ障がい者であっても、身体能力自体は高いため「パラリンピック」には出場できないという規定があるのだという。
 
「パラリンピック」という、世界が注目する“光”のかげで、同じ4年に一度の「デフリンピック」はほとんど知られることがないまま、一部の関係者によって支えられてきたというのが現実なのだ。
 

夢は金メダル!

もともと、いつか起業したいという思いがあった。

 
デフバレーをもっとたくさんの人に知ってもらいたい。練習に打ち込める環境を作って、いつか世界一になってほしい。そして日本代表の挑戦している姿を紹介して、同じ障がいを持った子どもたちに勇気を与えたい…
 
応援したいというわき上がるような思いは、いつか自分自身の“夢”へと変わっていく。
 
だったらこれをビジネスに結び付けられないか――
 
片手間の支援ではなく、本気で変えていこうとするなら、仕事として取り組んでいくのが一番の近道に違いない。
 
「会社では事業開発を担当してたんですが、事業を起こすのに一番大事なことは“使命感”なんだということを学んだんです。自分の使命って何なんやろ…そう思って考え続けてる時、デフバレーに出会った。僕の行く道はここなんやと確信したんです」
 
資金がない、なら新しいスポンサーを獲得すればいい。スポーツウエア、シューズ、補聴器…アイデア次第でさまざまなアプローチが可能になる。さらに20年間のバレー生活で築いてきた人脈は、プロの有名選手や監督にまでおよぶ。彼らを巻き込んでのプロジェクトや交流試合だって、きっと実現できるに違いない。
 

「夢は2021年のデフリンピックで、日本が金メダルを獲るところを、すぐそばで見たいってことかな。そのために出来ることは、なんでもやります!」
 
この活動こそが「自分がこの世に生を受けた意味、あかし」だと言い切る彼。
きっと常識は変えられる、奇跡は起こる――挑戦の行方が楽しみでならない。

2015/2/27 取材・文/花井奈穂子 写真/ 小田原大輔